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八千代歯科クリニック

★院長からのリポート

●放射線の被害に関する正しい知識 2011/3/22/

 原発事故以来、マスコミが不安を煽る報道を繰り返したこともあり、被爆への心配をされている方は多いでしょう。そこで八千代歯科クリニックでは、一般の方が断片的な情報に惑わされないためにも、放射線に対する「正しい知識」を提供する必要性を感じ、このページを緊急に立ち上げました。ぜひ参考にしてください。

1.東京都足立区の放射線量の位置づけについて

足立区役所では、毎日数回放射線量マイクロシーベルト(μSv/時間)を区役所前にて測定し、その結果をホームページで発表していました。
2011年3月19日(土曜日)の数字を例にとり、現在の放射線量が杞憂であるのかどうかを説明いたします。
3月19日の平均放射線量は0.1μSv/時間でした。この数値が1年間継続したとの前提で計算すると、
0.1×24(時間)×365(日)=876(μSv/年)≒0.9(mSv/年)
この数字を多くの既存の平均値と比べた表を作成しました。
この表の作成には、放射線医学総合研究所、日本医学放射線学会、日本放射線技術学会、日本放射線影響学会のホームページを参考にいたしました。
どの学会でも一般の方へのデータ提示をしておりますので、心配な方はホームページも是非見てください。
また数値は資料により多少異なることをご了承下さい。

表) 各種放射線被曝量の比較

項目 数値(μSv) 単位(回数,年など)
歯科用レントゲン 5 1回
東京〜ニューヨーク間の飛行
(高度による宇宙線増加)
200 1回
胃のレントゲン集団検診 600 1回
足立区役所前の線量
(3月19日分を1年間で計算)
876 1年間
1人当たりの年間自然被爆
(世界平均)
2,400 1年間
ブラジルのガラパリ地方
自然被ばく量
5,500 1年間
CTスキャン 6,900 1回
イランのラムサール地方
自然被ばく量
10,200 1年間
喫煙 13,000 1年間
発がん性の可能性が検討される基準 100,000 1年間

*ブラジルのガラパリ、イランのラムサール、インドのケララ、中国の楊江など、世界には高自然放射線地域が存在します。

この表より、足立区の年間推定値は、東京―ニューヨーク間を2往復した程度で、年間自然被ばく量と加算しても、CT スキャン1回受診の半分以下であることが分かります。
ここまで数値が小さくなる理由は、放射線量は距離の二乗に反比例するためです。
例として、1q地点の被爆量を1(mSv/時間)とすると、20q地点では0.0025(mSv/時間)まで被爆量が減弱します。
したがって、避難勧告の20キロや30キロには大きな意味があり、それ以外の地域の方は、いたずらに不安がらずに、被災地への援助にまわるべきなのです。
なお宇宙線については、東大小柴教授のスーパーカミオカンデが宇宙線(放射線)を測定していたことが、記憶に新しいと思います。
この表から、専門家が繰り返し発表しているように、都内においては、生活上問題がないことが理解していただけたかと思います。余談になりますが、歯科用レントゲンの安全性も理解してもらえたものと考えます。

2.食材からの放射線物質の体外排除について

 多くの物質は体外へ排除されます。残留するものとして、甲状腺に集まる放射線ヨウ素131がマスコミで取り上げられていますが、放射線ヨウ素131の半減期(半分に減るまでに要する時間)は八日であり、お子さんへの影響を気になさっている方でも、4月中旬以後になれば、産地を気にすることなく購入できるようになります。
なお成人家庭では、現時点でも茨城、栃木、福島産の農産物を摂取しても問題無いため、むしろ積極的に購入して風評被害を防ぎましょう。

3.安定ヨウ素剤の必要性について

 ヨウ素剤を飲むと、甲状腺に集中する放射性物質を防御できることは、繰り返しマスコミにて報道されました。
チェルノブイリ事故の後、内陸の国では甲状腺疾患が問題となりましたが、海岸沿いのスウェーデンでは政府の働きかけも功を奏しかなり防げました。
これはわが国と同様、スウェーデンでは海藻類(ヨード)を摂取する習慣があることも一因と言われています。
島国で暮らす日本人は、従来から甲状腺内のヨウ素が十分に存在しており、安定ヨウ素剤を直接の被災地以外で配布する必要性は、現時点で無いことが専門学会でもしっかり提示されています。
ちなみにヨード含有のうがい薬を飲むという恐ろしいデマが、まだ1部で残っていますが、うがい用で高濃度となるイソジンガーグル液(明治製菓)でも7%のみの配合です。
これを15〜30倍に希釈したうがいですら約1%に副作用が生じます(メーカーのデータ)。
この93%の添加物を飲んだら何が起こるか想像もできません。
また、飲用エタノール(お酒)には酒税がかかる為、消毒用エタノール等にはメタノール(飲むと失明します)やイソプロピルアルコールなどの飲めない(飲むと危険な)アルコールを加えています。
従って我々医療従事者は絶対に飲みません。消毒用ヨードチンキにも70%この飲めないエタノールが入っています。ルゴール液にはさらにフェノール(劇薬です)が入っています。

4.飲用水(水道水)について (3月28日追記)

 3月24日、金町浄水場の水道水に1リットルあたり210ベクレルの放射性ヨウ素が含まれていたと報道がありました。
放射性ヨウ素に関する国の安全基準値は、水1リットルあたり300ベクレルですので、1歳未満の乳児のみが対象となった注意喚起のはずでしたが、その日のうちにスーパー、コンビニのほかにも、近所の全ての自販機の水が売り切れるといった、理解不能のパニックが起こっております。
私が見た範囲では、普段自販機であまり物を買わない、オイルショックを経験している世代が水を多く買っていました。もちろん乳児の孫がいるのかも知れませんし、若い世代はその前に買い占めているのかもしれませんので非難はできません。
 ICRP(国際放射線防護委員会)の内部被曝に関する線量換算係数にて、放射線ヨウ素131の計算をすると、210ベクレルは4.62マイクロシーベルト(μSv)になります。
1リットル中に210ベクレルの放射線が含まれる水を、大人が毎日1リットル、4ヶ月間(120日)飲み続けた場合で約554マイクロシーベルト(μSv)の被曝を受ける計算になります。
この値は上の表と照らし合わせると、大きな値ではないことがわかります。
なお、前述したように放射性ヨウ素は半減期が約8日です。8日経つと半分になり、16日経つと1/4になります。
したがって、一度体内に取り込んでも2ヶ月後には1/100以下になりますので、少なくとも成人(もっと正確に言うと5歳以上のヒト)への健康の影響を心配する必要はありません。
乳児を抱えていて、スーパーに長時間並んだりする事の出来ない母親より先に、ペットボトルの水を買い占めに走る理由には全くなりません。
 もう一度繰り返し記しますが、内部被曝の対象は、乳児・幼児までであり、今回はオイルショックではありません。
子供の手本となるべき我々成人が、乳幼児から水を取り上げるような、恥ずべく行動をとるべきではありません。

5.このページを見た医療従事者へ

 医療従事者は、今こそ医学の基礎知識として学んだ放射線に対する『正しい知識』を、多くの一般の方にあらゆる形で提示する必要があると私は考えています。
かくいう私も他の医院のHPで気づかされたひとりですので、ぜひとも放射線の正しい知識を提供して、一般の方の不安を取り除く一助となりましょう。

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●誤嚥性肺炎予防の実際とアロマセラピーの活用

 2009年5月に掲載した「インフルエンザ予防の香り」のページは同年9月から通常の倍以上のアクセス数を集め、12月まで多くの方が訪れました。トップページのトピックスの欄に記した様にフレグランスジャーナル社からの原稿依頼があり、「インフルエンザ予防の香り」の内容をモディファイして厚生労働省の最新のデータを加えたものを「インフルエンザの仕組みと精油」の題名でアロマトピア誌Vol.19(1)に掲載しました。
 今回の倍以上のアクセス数の結果から、八千代歯科クリニックのホームページが多少なりとも人の役に立ったことを実感しましたので、今後も直接役に立ちそうな専門分野の学術論文を判り易く解説したページを加えていくこととしました。
 第二報として、2009年12月に日本アンチエイジング歯科学会誌Vol.2に掲載された私の論文「誤嚥性肺炎予防の実際とアロマセラピーの活用」の抜粋を掲載しました。この論文は年末に発行されたばかりにも拘らず、実際に介護に関わっている方や知識として知りたい方から読んでみたい、別刷が欲しいなどの連絡をもらっており、抜粋ではありますが、公開することとしました。
 なお、抄録、英文、文献は削除し、その他にも歯科の専門の羅列になるところや論文独特の言い回しになるところなど一般の方が読み難い文章は大幅に削除しています。
 最後に、論文終盤に出てくる東北大学で開発した誤嚥防止用のブラックペッパーの芳香シート(アロマパッチ30枚入り3800円)は市販されています。以下に連絡先を記しますので、必要とされる方はひかり介護用品センター(TEL 022-215-8080 FAX 022-215-8255)に直接ご連絡下さい。
lineline

 千葉栄一 著:総説論文「誤嚥性肺炎予防の実際とアロマセラピーの活用

 (日本アンチエイジング歯科学会誌2巻P68-75(2009年12月発行)より抜粋

1.はじめに
 我々の身体機能は、加齢とともに確実に老化し衰えていく。その一つの現象として、自覚の出来る体力の衰退や外見上の変化の他に、飲食時の気管への食物の入り込みがある。この現象は誤嚥と呼ばれ大きな社会問題となっている。健常であれば気管に入った異物は咳き込むことで吐き出すことができる。1)
しかし高齢者や有病者の場合、うまく咳き込むことが出来ずに気管に残ることがある。この異物に起因しての発熱、さらには肺炎にまで進行する。これは食物に限らず、口腔内細菌の落下からも誤嚥性肺炎は発症する。
 厚生労働省の平成19年の人口動態統計によれば、日本人の死因としての肺炎は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患についで第4位であり、年齢を限定して85歳以上では3位、90歳以上では2位と、さらに高い死因となっている。高齢者の肺炎による死亡率が増える最大の理由は、誤嚥性肺炎の増加であると言われて久しい。誤嚥性肺炎は、高齢者や基礎疾患などにより全身状態の低下した方に、有意に発症しやすくなる。福岡ら2)は、高齢者の肺炎の90%は誤嚥性肺炎である事を報告しており、いったん発症すると繰り返すことが多いのも特徴とされる。
 この誤嚥性肺炎の予防に、アロマセラピーの有効性が認められており、医科ではシステムとして取り入れ始めている。そこで本論文では、今後歯科におけるアンチエイジングの大きなテーマとなるであろう、誤嚥性肺炎予防に関する現在の方向性と、誤嚥予防に役立つアロマセラピーの効果について報告する。

2.誤嚥のメカニズムと予防法
不顕性誤嚥の概念図 誤嚥とは食物や口腔内細菌などの口腔内の異物が、誤って気管内に入り込むことをいう。意識下または介護者が見ていて気付く誤嚥を顕性誤嚥といい、それに対して、無意識下の誤嚥を不顕性誤嚥という。顕性誤嚥は食事中に多く認められ、不顕性誤嚥は就眠中での唾液や口腔内細菌類の落下が主な原因となっている。不顕性誤嚥の原因菌としては、歯周病原性細菌が第一に挙げられる1)。義歯のデンチャープラークもカンジダ菌を中心としたバイオフィルムであり3)、さらに咽頭や口腔内に潜伏するブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、セラチア菌なども原因菌となる。不顕性誤嚥の模式図を図1に示した。
高齢の義歯装着者が罹患しやすく、義歯の清掃も大きな予防のテーマである。
 誤嚥性肺炎の主な発症リスクとしては、1.口腔内細菌の増加、2.口腔機能および嚥下反射の低下、誤嚥性肺炎の発症リスク相関3.背景的には疾病、加齢、免疫力の低下などが挙げられ、これら因子が重なることで発症率が高くなる(図2)。
誤嚥性肺炎のリスク因子は、逆に言えば予防のポイントともなる。すなわち大別すると、「清掃」と「機能回復」が2大ポイントとなる。義歯の清掃を含めた口腔ケアなどにより口腔内を清潔にして口腔内雑菌を減らす。そして、食べたり飲み込んだりする摂食・嚥下機能を回復させる口腔リハビリも重要となる。口腔の細菌除去と嚥下機能の回復がケアの両輪となり、誤嚥性肺炎を予防することとなる。そこで次項から、「清掃」と「機能回復」の項目に分けて、研究報告を中心に解説する。

3.義歯の清掃を含めた口腔ケアによる予防
 強固に沈着したデンタルプラークは、口腔ケアとして機械的に除去しなければならないものの、抗菌効果の有する洗口剤も、プラークを減少させるのに有効な口腔衛生法で、かつ介護者不要の扱いやすい補助的アイテムである。アロマセラピーの精油は、歯磨剤と共に洗口剤に多く用いられている3,4)。
 3.1. 口腔ケアの効果
 米山ら5)は、11箇所の特別擁護老人ホーム入所者366名を対象に、2年間の口腔ケア介入の追跡調査を行っている。その結果、口腔ケアを行わなかったグループは、行ったグループと比べ肺炎発症リスクが1.67倍高いことが明らかになっている。また発熱日数と肺炎罹患者数の両方とも、口腔ケアによる発生低下が統計的有意差を持って実証された。口腔ケアは口腔内細菌を減少させるほかに、ブラッシング自体が嚥下反射・咳反射を改善させることも判明した。
 そのほかにも、治療と予防を比較した結果では、施設入所者が肺炎を生じた場合、抗生薬投与による治癒率は20%であったのに対し、予防として口腔ケアを実施した結果では、肺炎の死亡率を約半数にまで減少させたことが報告されている2)。
 これらの研究結果より、ブラッシングを用いた口腔ケアは口腔内雑菌を排除するだけでなく、ブラッシングそのものが口腔内の知覚神経終末を刺激し、末梢性・中枢性に神経伝達物資放出を促し、上気道防御反射を改善すると考えられている6)。
 3.2. アロマセラピーの効果
 口腔清掃に用いられる抗菌物質としては、ポビドンヨード、クロルヘキシジンなどがあるが、クロルヘキシジンは我が国ではショック症例が生じたこともあり、欧米のGolden Standard(0.2%)と比較も出来ない0.05%の製品しか市販されていない。そこで注目されるのが、口腔内細菌に抗菌活性を示すエッセンシャルオイル(以下精油とする)の活用である。
特に現時点まで副作用例の報告されていない、ティートリーオイルを中心として抗菌活性が調べられており、その有効性の報告例が多い。
甲田は、含嗽薬としてのティートリーとイソジン(ポビドンヨード)の消毒効果について、8菌種、54株の臨床分離菌を用いて比較した結果を報告した8)。
その結果菌の繁殖を阻止するために、ポビドンヨードはティートリーの4〜32倍以上の濃度を必要とすることが解った。これはポビドンヨードとティートリーの抗菌作用機序の違いではないかと考察している。ポビドンヨードにて含漱した場合、口腔内の唾液、上皮細胞などを始めとする、多くの有機物に対しても菌と同様に反応するため、消毒効果が減少していく。一方ティートリーは菌のタンパク質と結合する殺菌特性から、口腔内の有機物に反応することなく、直接菌にのみ取り付く性質が強く働き、これが優れた殺菌効果を得られる理由ではないかと推察し、考察実験にて確認している。
甲田らの結果は、ティートリーの含嗽薬としての有効性を示したものであるが、ポビドンヨードを否定するものではない。ポビドンヨードにはこのような欠点があるため、メーカー指定の濃い濃度が必要であることを理解して使用すべきことを示している。精油によるバイオフィルム形成抑制効果
ティートリーに関しては、甲田らの研究グループの膨大なデータにより、その薬理効果の解明が進んできている。東京歯科大学微生物学講座では、マヌカ、ティートリー、ユーカリ、ラベンダー、ローズマリーの精油を用いて、う蝕原性菌や歯周病原細菌に対する抗菌作用について比較検討した13)。その結果すべての精油は、口腔内細菌に対して発育抑制を示し、特にマヌカとティートリーが効果的に発育を阻害した。
歯周病原細菌であるActinobacillus actinomycetemcomitansのバイオフィルム形成に対する精油の効果を調べた結果では、培養開始時から添加した時は、すべての精油にて形成抑制効果が確認できた。またバイオフィルム形成後に精油を添加した場合も、バイオフィルム量の増加を抑える結果を得ている。結果を図3に示した。
 前述したように、カンジダ菌を中心としたデンチャープラークも誤嚥の原因となる。ティートリーは元来カンジダ対策で脚光を浴びたものであり、甲田8,9)や大西10,16)の報告でも著効を示している。
そこで、最後に著者が日常臨床で行っている、ティートリーを活用した義歯の清掃法17)を記す。
はじめに、義歯を通法通り義歯ブラシにて清掃する。次にティートリーオイルを少量のアルコールに溶かした後、ビ−カ−に入れて水道水を追加しティートリー含有溶液を作成する。このビーカーに清掃後の義歯を入れて、超音波洗浄するという術式を用いている。
 最近は精油分散剤ソルビタイザーなどの登場で、より簡単に水溶化出来るようになってきた。義歯を清掃不良により不潔にしている方は多くおり、義歯のケアを怠るとカンジダ増殖と直結し、誤嚥性肺炎の罹患が現実味を帯びてくる。
カンジダに限らず口腔内の除菌に関して、ティートリーの安全で克つ強い殺菌効果は、アロマセラピーという枠を超えて、他に変わるものが無い貴重な医薬品として著者は捉えている。

4.摂食・嚥下機能向上による予防
高齢者誤嚥のメカニズム 日本人に多い高齢者の脳血管障害は、無症候も含めて4割近く存在すると推定されている。小さな梗塞が大脳基底核などに存在すれば、脳内神経伝達物質のドーパミンの代謝障害が必然的に生じる。このドーパミン作動性神経系はその下位のサブスタンスP神経系を修飾しているため、知覚神経終末から放出されるサブスタンスPの合成が不足するという状態になり、その結果サブスタンスPが惹起するのに不可欠な嚥下反射・咳反射が遅延することが解ってきた。すなわち脳内の神経伝達物質ドーパミン―サブスタンスP神経系の障害により、嚥下・咳などの反射運動が低下するわけである 5)。
この概念を図4に示した。
 したがって高齢者の誤嚥は、咽喉頭の器質的な病態が原因であるというよりも、脳に起因する神経の知覚や伝達の障害という側面を有している。そのため誤嚥の予防や治療は、神経に対するアプローチも重要な要素となる。清掃の項目で挙げた口腔ケアは、ブラッシングそのものが、口腔内の知覚神経を刺激し、サブスタンスPを始めとする神経伝達物質の放出を促進する事は先に述べた。そのほかに温度刺激や嗅覚刺激も有効である事が解ってきた。
 4.1.温度刺激(食事の温度とスパイス)の効果
 誤嚥の予防には日々の食事内容も重要である。以前は食事の材質・粘性・大きさなどの食べやすさのみに注意が向けられていた。 嚥下反射と食事温度の関係高齢者の食事イコール刺激の少ない安全な温度のキザミ食というイメージが強い。著者は補綴学教室在職時に、特別養護老人ホームへ1年間出向していたが、実際にこのタイプの食事が多かった事を目にしている。しかし,東北大学加齢医学研究所のグループは、高齢者の嚥下機能は、たとえ障害されていても温度感受性があり、経口摂取時の食物温度やその味付けも重要であることを見出した 18)。
彼らが調べた嚥下反射と食事温度の関係は、図5のような放物線を描いた。すなわち体温付近では,嚥下反射が13秒と大幅に遅延していても、30℃以下の冷たい温度と、逆に60℃以上の熱い温度では、嚥下反射が大きく改善する事が解った。また、サブスタンスP の分泌を促す物質として、唐辛子の成分のひとつであるカプサイシンがあり、嚥下反射の低下している患者の口腔内にカプサイシンを投与すると低濃度で嚥下反射が改善されることが知られている 19)。
 この結果を基に某介護老人保健施設において、唐辛子を使ったキムチ漬などを給食に取り入れ、カプサイシンを取り入れる前の1年間と、取り入れた後の1年間における、誤嚥性肺炎の予防効果について比較検討している 20)。
その結果では、カプサイシンの使用回数を増やしたところ肺炎患者が有意に減少し、高齢者の誤嚥性肺炎予防のためには、カプサイシン摂取が有効であったことを確認している。
続報 21)ではカプサイシン含有食を、1ヵ月平均30%以上の食数に保つ必要があり、多いほど良い感触を得た事を報告している。
 したがって高齢者といえども、熱い物は熱いまま食す、温度のメリハリが大事である。著者から一つ付け加えるならば、図5から冷たい水(ジュースでも牛乳でもOK)を一口飲んでから食事を始める事を薦める。特にパンやカステラなど唾液を吸ってしまう物を食べる時には必ず励行してほしい事柄の一つである。
 4.2.嗅覚刺激(アロマ)の効果
アロマセラピーの嚥下反射への効果 摂食・嚥下障害に対する薬物療法は、誤嚥リスクのある人に薬を内服させるという矛盾を有する方法であり、また意識レベルの悪い者には用いることはできない。
そこで海老原ら 18)は、ADL(activities of daily living;日常生活動作)・意識レベルが悪く、自力で経口摂取が出来ない高齢者に対して、アロマセラピーの芳香療法を応用した嗅覚刺激による摂食・嚥下の改善方法を考案した。嗅覚刺激によって、誤嚥と関連する脳血流低下部位の、脳血流を回復させることを試みたわけである。具体的には、高齢施設入所者を任意に3群に分け、ブラックペッパー(黒胡椒)精油群、ラベンダー精油群と、比較対照として蒸留水群(匂い無し)とし、群ごとに同じものを毎食前に1分間嗅いでもらった。嗅覚刺激介人後、ブラックペッパー群で、嚥下反射および末梢血中サブスタンスP濃度の有意な改善が認められるとともに、1分間の嚥下運動の回数も、ブラックペッパー群のみ大きく増加している。
通常15秒程度の嚥下反射が、ブラックペッパーを嗅ぐと、5秒以下に短縮。嚥下運動も4倍以上に増加しており、驚異的な結果を示した。
結果の1部を図6、図7に示した。海老原らは、この結果の原因を確認するため、上位嚥下中枢付近の脳の血流を調べている。その結果、ブラックペッパー群のみ脳の血流が改善(増加)していたことを確認した。すなわちブラックペッパー精油による嗅覚刺激は、脳に直接刺激を与えて嚥下反射および運動を改善する。この嗅覚刺激のような介護的アプローチをもって、はじめて統合的に誤嚥予防が可能であると述べている。
アロマセラピーの嚥下回数への効果 このアロマテラピーの芳香療法は、どのような状態の方にも行えるので、非常に有望な摂食・嚥下障害の予防法といえる。この結果を踏まえ、東北大学ではブラックペッパーの特殊な芳香シートを開発し、夜間の不顕性誤嚥を防ぐため、1日1枚患者の寝巻に添付して実用化している。
これは、いわばドラッグ・ガス・デリバリーシステムといった新しい概念となるものである。
 本論文のテーマとは異なるが、シダーウッドの精油の香りが嗅覚神経系を介して自律神経機能に影響する事から、将来的に睡眠時無呼吸症候群の治療に活用できるのではないかという論文 22)など、アロマセラピーはその機能的効果が注目されはじめ、医学領域では急激に論文報告が増加してきている。
これらの研究に共通している特徴は、いずれの場合もヒトに対して“非浸襲性である”という点にある。内服といえども身体に負荷をかける可能性が生じる。香りは嗅覚上皮を通じて、大脳辺縁系に直接届く。この脳に直接刺激を与えられる点に着目し始めた訳である。アロマセラピーの機能性は、ヒトに負荷をかけない診断・治療法として、大きな可能性を秘めた分野であり、今後さらに発展するものと考えている。

5.おわりに
 2005年の総務省国勢調査によれば、我国の65歳以上の高齢者数は2567万名、その内75歳以上は1160万名であり、要介護高齢者は432万名となる。これら想像出来ない位の大多数の方々に対して、義歯の清掃を含めた口腔ケア方法と摂食・嚥下機能回復のケア方法を広め、高い死亡率の誤嚥性肺炎の予防に努めるのは、医療従事者として重要な職務といえよう。
特に我々歯科医療従事者には、口腔内を清潔にして口腔内雑菌を減らすための、家庭で出来る適切なオーラルケアの確立が求められており、オーラルケア関連の業者も含めた歯科界全体の急務と考えている。
不顕性誤嚥は、有病者や入院患者のみに起こるわけではなく、嚥下反射が低下している高齢者全体がターゲットとなる。そのため、家庭内において不顕性誤嚥リスクを減らす最も確実な方法は、歯磨きと洗口に他ならない。待ったなしでやってくる、高齢化社会のオーラルケアには、安全性からティートリーを代表とする、精油を用いた本格的な取り組みが必要であることは論を待たない事実である。
 最後に本論文をまとめるきっかけについて触れる。著者は香りの専門誌にて海老原らの論文18)を偶然見つけた。
そこにはカプサイシン(唐辛子)やミントなどの食材自体の効果や、食事の温度刺激の効果、さらにはブラックペッパーオイルの芳香療法までと、誤嚥性肺炎予防に対する真摯な取り組みと共に、予防法が大きく前進している現況が記してあった。
咀嚼や嚥下は我々歯科医療の領域でもあり、実際に高齢者の口腔ケアに日々取り組んでいる歯科医療従事者は多い。そのため、これら最新の予防法を多くの歯科医療従事者にも伝える必要性を強く感じた。
したがって海老原らの論文(海老原孝枝ほか、嗅覚刺激と高齢者摂食嚥下障害、におい・かおり環境学会誌39(4): 210-220,2008.)が全ての始まりであり、結果として海老原らの報告を中心とした形になったが、この点については御容赦願いたい。

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●インフルエンザ予防の香り

 WHOがフェーズ5を宣言した頃、私の専門の香り(アロマ)で、新型インフルエンザの予防が出来ないものであろうかと、インフルエンザと精油のキーワードで学術論文を検索したところ、今年の3月に発行した、A香港型インフルエンザウイルスに対する5種精油の効果を調べた日本の原著論文が見つかりました。
 著書『歯と香り』では、タミフルの素材(スターアニス)についても書きましたが、このような新薬に頼ることなく、体に負荷をかけず、香りでインフルエンザが予防できるのならば、これほどの福音は他にないでしょう。
 そこで、このホームページ上にて、その論文の内容を解り易く解説することとしました。

  出典:中平比沙子ほか(富山大学医学部),アロマテラピー学雑誌.9(1),2009.

初めに精油の細胞毒性を調べており、毒性の少ないものから順に、ユーカリ・ラジアタ、ティートリー、ニアウリとなっています。

次に細胞毒性(−)の範囲の濃度の精油を用いて、ウィルス群に直接接触による抗菌性を調べました。その結果、ラバンサラとティートリーがウィルス量0となり、次いでユーカリ・ラジアタが10%まで減少させていました。

この結果を踏まえ、次に雄6週齢のマウス(1群10匹以上)を用いて、精油芳香の効果を調べています。この実験は安全で抗菌効果も比較的良好だったユーカリ・ラジアタのみで行っています。
この点が私には非常に残念ですが、動物実験を行う事情から、精油を絞らざるを得なかったのだと思います。

A群は感染7日前から直前までの、予防のみの芳香を行ったグループ。
B群は感染時から感染8日後までの、感染後のみの芳香を行ったグループ。
C群は何も芳香しなかった、対照とするグループ

新型インフルエンザ対策

結果は、グラフ(一部抜粋した)から解るように、予防で芳香していたA群の結果が最も良く、B群の感染後の芳香でも最初の4日間は、A群の予防と同様に100%の生存率でした。一方、対照群は日に日に生存数が減少し、ユーカリの芳香がインフルエンザに有効であろうことは、誰の目にも明らかです。
論文の著者は、ユーカリの芳香が生体防御能の活性化をする事と、ウィルスの宿主細胞への吸着阻害作用か増殖阻害作用を有するのではと考察しています。

私は、動物実験をいきなり人に当てはめるつもりはありません。しかし、人の役に立つ為、人の代わりに行うのが動物実験の使命ですので、この実験結果は最大限に吸収すべきと考えています。
予防としての事前芳香の方が良好であった点を鑑みると、家庭で活用するかは別にして、少なくても、歯科医院の待合室ではユーカリやティートリーの芳香を推奨する根拠(エビデンス)にはなると思います。そこで当クリニックでは、トピックに記したように、当分の間、ユーカリ・ラジアタとティートリーの組み合わせの芳香を行います。決して良香ではありませんがご了承下さい。
なお、ディフューザーの無い家庭では、ティッシュにユーカリを垂らす方法も有効ですし、著書『オーラルケアのためのアロマサイエンス』に書いた、マスクの内側にユーカリを少量つけ、その上にガーゼを被せる使用法も良いでしょう。使用する精油については、必ずケモタイプの製品を選んでください。詳しくは著書、『オーラルケアのためのアロマサイエンス』か『歯と香り』を参照してください。

八千代歯科クリニックでは、芳香の他にも来院時に手洗いとうがいが出来るように、以前から入口の洗口コーナーに紙コップと洗口剤を備えております。さらに当分の間、診療室入り口のドア付近に、ベンザルコニウム配合のプッシュ式の消毒ビン(病室の前に置いてある速乾タイプ)も設置しました。ぜひ活用して下さい。

繰り返しますが、薬に頼ることなく、体に負荷をかけず、香りで多少なりともインフルエンザが予防できるのならば、あるいは感染の進行を阻害できるならば、これほど安全で簡単な予防策は他に無いのではないでしょうか。

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